モントレー半島の春は、ワイルドフラワーや海岸のアイスプラントが咲き、一年で一番きれいな景色を楽しめる季節です。それから春は、ハーバーシールの出産、子育ての季節です。
ハーバーシールの出産は、4月上旬から中旬にかけて行われます。水中で出産することもあるようですが、普通は岩場やビーチで行われるようです。
私は一度だけ出産シーンを目撃したことがあります。
いつものようにハーバーシールの群れがいる小さな湾の対岸を双眼鏡でのぞいたら、波打ち際で大人のハーバーシールがじっとしていたんです。普段とはちょっと違う感じで。なんか変だなあと思って、そのまま双眼鏡をごしに観察を継続。しばらくすると、大人のハーバーシールのお腹から灰色の小さな赤ちゃんが真っ赤な胎盤と一緒にスルッとでてきたんです。あっ出産だ!っと思った瞬間、すごい勢いでたくさんのカモメが集まってきて、波に流され始めた胎盤に群がってついばみ始めました。私はこのとき、出産を見た感動より、カモメたちのパワーに圧倒されてしまいました。
ハーバーシールの赤ちゃんは、ビーチではいつも母親と一緒です。寝転んでミルクをもらったり、昼寝をしたり、母親の鰭を甘噛みして遊んだりしています。
ハーバーシールの親子たちが集まるビーチでは、「メィー、メィー」という大きな声が聞こえてくることがよくあります。母親がはぐれてしまった赤ちゃんを呼ぶ声です。普通はしばらくすると、無事再会することができるのですが、稀に本当に迷子になってしまう赤ちゃんもいます。こんな赤ちゃんは、まだ自力で餌を採れないので、不運にもやせ細って死んでしまうことが多いようです。
赤ちゃんは生後まもなく海に入ります。最初は母親の背中に前鰭(前足)をかけて、おんぶで水面の探検をします。子育てが始まったばかりの時期などは、あちこちにおんぶアザラシ親子が泳いでいるので、笑えてしまいます。
生後数日経過すると、潜ることもできるようになります。大人のハーバーシールは水中では神経質で、ダイバーに近づいてくることはあまりありませんが、赤ちゃんはいろいろなものに興味深々です。ダイバーに興味を持って、私の方に近寄ってくることもあります。あまり近づきすぎると、少し離れて見守っていた母親が、「こっちにきなさい!」っていう風に連れ戻したりしています。赤ちゃんがもう少し大きくなって生後3週間くらいなると、ひとりで私のあとをついてきたり、カメラのレンズを覗き込んだり、足ヒレをかじったりもします。この頃のハーバーシールは、本当にフレンドリーで、思わず野生のことを忘れてしまうほどです。